クライミングは、指先のフリクションと、次の一手へ踏み出す勇気だけの世界ではありません。その根底にあるのは「呼吸」です。
先日の尺八についての記事に少し反響をいただきまして、調子に乗らせていただいたついでに、今回は古くから伝わる禅の修行法「吹禅(すいぜん)」についてと、クライミングに取り入れる提案をしてみます。
1. 吹禅(すいぜん)とは
「座って組む禅(座禅)」に対し、「笛を吹くことで到達する禅」を吹禅と呼びます。 江戸時代後期に虚無僧が尺八を吹くことを修行としたことに由来します。
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音を奏でるのではなく、呼吸を奏でる: 上手に曲を吹くことが目的ではありません。一息のなかに意識を込め、己の心身を音として吐き出す行為そのものが「禅」となります。
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竹と自己の同調: 自然素材である竹を通じ、外の世界と内の世界の境界を曖昧にしていくプロセスです。
- 誰でもどこでも: 禅というと難しそうに聞こえるかもしれませんが、良い音を探すうち、気がつけばそうなっているのが吹禅の素晴らしいところです。
2. 吹禅がクライミングに与える影響
なぜ、岩場に楽器を持ち込むのか。単純に楽しいからでもありますが、吹禅がもたらす生理的・精神的変化が、クライミングのパフォーマンスを科学的にも支えています。
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強制的な「呼吸のリセット」: 緊張によって浅くなった呼吸や、パンプによる心拍数の上昇を、尺八特有の深い腹式呼吸で、副交感神経を優位にし、速やかにリカバリーを促進します。
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感覚のチューニング: ムーブをこなすこと・ホールドを握ることに偏った意識を、一度「音」という聴覚へ逃がすことで、脳のオーバーヒートを防ぎます。
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「タメ」と「解放」感: 禅の音楽にある独特の間(ま)や緩急は、ダイナミックなムーブにおける「溜め」と「出力」の感覚に重なり、リラックスの上に感覚は研ぎ澄まされます。
これらは日々の生活でもそのまま良い瞑想となります。面白いもので、1音吹きだせばおのずとそれをより良い音へ吹けるように意識が向き、音のツヤ、音量や振動のタイプなど、非常に些細な変化を感じます。そうして自然と呼吸や姿勢にフォーカスしていき、気がつけば音の中に意識が溶け込んでいます。
3. 尺八・篠笛のはじめ方 ── 「一音の瞑想」から入る
はじめに書きましたが、上手に曲を吹くことが目的ではありません。「難しそう」「習わないと」と構える必要はありません。まずは一本の「竹」を手に取ることから始めましょう。
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「中古の竹」から始める贅沢: 中古の楽器は不良品のリスクがあるので安価なプラスチック製から始めるのが一般的です。しかし、岩場で吹くなら「竹」を手にいれるのも1つの選択肢だと思います。安価な中古の尺八でも、その一本一歩に宿る自然の造形は、指先に伝わるフリクションのように生々しく、心地よいはずですし、見た目も大事です。
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「一音」に集中する: 曲を吹こうとしなくて構いません。ただ「ポー」という一音を、岩壁に響かせる。その一音がどれだけ深く、静かに消えていくかを見届けるだけで、それは立派な吹禅です。もちろん演奏のし易さ、上達し易さは楽器によって異なりますが、やるかやらないかという大枠で見たら大した違いではありません。
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「基礎」と「樹脂製」の役割: もし、その一音の先に広がる音楽の世界に惹かれ、「しっかりと曲を吹きたい」と願うようになったなら、その時こそ基礎を学ぶために、ピッチの安定したプラスチック製を練習用として手にするのが良いでしょう。まずは、岩場に楽器を持ち込み、自然の一部になる感覚を味わう。それが最も純粋でクライマー的な初めの一歩だと思います。
- 中古品には良いものもあれば悪いものもありますし、種類や長さなど、様々な選択肢があります。どんなものを選べばいいかわからなければ、私に聞いてください。

「完登」という結果だけでなく、そのプロセスにある「静寂の時間」をどう過ごすか。SNSで際限なく出てくるポストを見て時間を潰すのもいいでしょう。しかしせっかく大自然に囲まれているのです、こんな味わい方、少し違ったの岩場の楽しみがあってもいいと思うんですよね。
チョークバッグの隣に、一本の笛を忍ばせてみませんか。 岩の上で響くあなたの呼吸が、きっと新しいクライミングの楽しみ方を導き出してくれるはずです。
(山本)